内卦
外卦

亨(とお)る。小(すこ)しく貞(ただ)しきに利(り)あり。

卦辞

亨(とお)る。小(すこ)しく貞(ただ)しきに利(り)あり。

遁の卦は、単なる消極的な逃走ではなく、賢明な戦略的撤退を説くものです。山が静かに天を押し上げるように、時には自ら進んで一歩引く姿勢こそが、真の知恵となります。卦辞にある「亨」は、退くことがかえって事態を円滑にし、将来的な発展への道を拓くことを意味しています。

今は無理に前に進もうと焦る時期ではありません。自分のエネルギーを温存し、精神的な平穏を優先することこそが、最良の選択です。「小利貞」の言葉は、大望を抱くよりも、身の丈に合った小さな誠実さや、現状の維持に徹することを勧めています。

現代の生活において、この教えは具体的な指針となります。例えば、人間関係の摩擦が激しい時には、あえて距離を置くことで衝突を回避し、仕事で行き詰まった時には、過度な競争から離れて自己研鑽に専念するなどが挙げられます。引くことは決して負けではありません。それは、次の好機を確実なものにするための、勇気ある休息であり、冷静な意思決定なのです。

卦体

初六

遁(とん)の尾なり。危(あやう)し。往(ゆ)くところあるに用(もち)うるなかれ。

六二

これに執(と)どむるに黄牛(こうぎゅう)の革(かわ)を用いる。これに勝(た)えて説(と)くものなし。

九三

遁(とん)に係(かか)わる。疾(やまい)ありて危(あやう)し。臣妾(しんしょう)を畜(やしな)えば吉なり。

九四

好(よ)く遁(のが)れる。君子は吉、小人は否(しから)ず。

九五

嘉(よ)く遁れる。貞(ただ)しければ吉なり。

上九

肥(ゆた)かに遁れる。利(り)あらざるなし。