卦辞
小事(しょうじ)には吉なり。
睽(けい)の卦は、火が上へ昇り沢が下に溜まるという、互いに背を向け合う象徴を描いています。これは対立や誤解、あるいは内なる矛盾を暗示するかのように見えますが、易経の教えはそこで終わりません。卦辞の「小事吉」とは、今の時期、大きな変革や無理な統一を図るのではなく、小さなことにおいて吉があることを説いています。
現代の日常生活において、この知恵は極めて実践的です。職場での人間関係の軋みや、価値観の異なる相手とのコミュニケーションに悩んだとき、無理に相手を説得したり一気に距離を縮めようとするのは得策ではありません。むしろ、目の前の小さな業務を確実にこなす、挨拶といった些細な礼儀を守るといった、地味だが確かな積み重ねにこそ、解決の糸口があります。
心理学的な観点からも、これは「受容」と「忍耐」の重要性を示唆しています。相反する要素があることを否定せず、それを認めた上で、微細な調和を探る姿勢です。大きな結果を急ぐ焦りを捨て、手近な成功体験や小さな信頼関係を一つずつ築いていくこと。その地道な歩みこそが、やがて大きな対立を乗り越え、新たな統合へと導くのです。
卦体
悔(くい)亡(ほろ)ぶ。馬を喪(うしな)うも追うなかれ、自(みずか)ら復(かえ)る。悪人を見れば、咎(とが)なし。
主(あるじ)に巷(こう)に遇(あ)う。咎なし。
輿(よ)の曳(ひ)かれ、その牛の掣(とど)めらるるを見る。その人、天(あめ)し且(か)つ劓(はなき)らる。初めなくして終わりあり。
睽(そむ)きて孤(こ)なり。元夫(げんぷ)に遇(あ)い、交わり孚(まこと)あり。危(あやう)けれども咎なし。
悔(くい)亡(ほろ)ぶ。その宗(そう)、膚(はだえ)を噬(くら)う。往(ゆ)けば何の咎(とが)あらん。
睽(そむ)きて孤(こ)なり。豕(いのしし)の泥(どろ)を負(お)い、鬼(き)を一車(いっしゃ)に載(の)せるを見る。先にこれに弓を張り、後にこれに弓を説(と)く。寇(あだ)するにあらず婚媾(こんこう)せんとす。往(ゆ)きて雨に遇(あ)えば、則(すなわ)ち吉なり。