卦辞

亨(とお)る。貞(ただ)し。大人は吉にして咎(とが)なし。言(こと)あるも信ぜられず。

「困」の卦は、一見して行き詰まりや疲弊を象徴するようですが、そこには「亨(とおる)」という逆説的な希望が宿っています。これは、物質的な制約や精神的な孤立という試練を通じてこそ、人間的な深みが増すという真理を示唆しているのです。

現代の生活において、たとえば職場での理不尽な立場や、周囲に理解されない孤独感に直面した時、この卦は重要な指針を与えます。「有言不信(言あれども信ぜられず)」にある通り、混乱した状況下では、どれだけ論理を尽くしても弁明は虚しく響きがちです。今は言葉で状況を変えようとするのを諦め、沈黙という知恵を持つべき時です。

大切なのは、外部の承認に依存せず、内なる「大人」としての原理原則を貫くことです。困難を避けるのではなく、静かに忍耐し、自己の内面を磨くことに専念してください。この苦境は単なる不運ではなく、自身の魂をより強靭なものへと昇華させるための、不可欠な通過道なのです。

卦体

初六

臀(しり)、株木(しゅぼく)に困(くる)しむ。幽谷(ゆうこく)に入り、三歳(さんさい)まで觌(み)えず。

九二

酒食(しゅしき)に困(くる)しむ。朱绂(しゅふつ)方(まさ)に来(きた)る。用(もっ)て享祀(きょうし)するに利あり。征(ゆ)けば凶なり。咎なし。

六三

石(いし)に困(くる)しみ、蒺藜(しつれい)に据(よ)る。その宮(きゅう)に入りてその妻を見ず。凶なり。

九四

来(きた)ること徐徐(じょじょ)たり。金車(きんしゃ)に困(くる)しむ。吝(りん)なれども終わりあり。

九五

劓(はなき)り刖(あしき)らる。赤绂(せきふつ)に困(くる)しむ。乃(すなわ)ち徐(おもむろ)に説(よろこ)びあり。用(もっ)て祭祀(さいし)するに利あり。

上六

葛藟(かつるい)に困(くる)しみ、臲卼(げつごつ)たり。曰(い)わく動けば悔(くい)あり、悔あれば征(ゆ)きて吉なり。