卦辞

孚(まこと)あり。窒(ふさ)がりて惕(おそ)る。中(ちゅう)すれば吉なり。終(おわ)れば凶なり。大人(たいじん)を見るに利あり。大川(たいせん)を渉(わた)るに利あらず。

「訟(うえたてる)」の卦は、天の上昇する気と水の流れる気が互いに背を向けて進む姿を象っています。これは、意見の対立や利害の衝突、すなわち「争い」の構造を示唆するものです。しかし、易経がこの卦に込めた深い教えは、争いに勝つことの虚しさと、和解の英知にあります。

卦辞にある「中吉、終凶」は、争いの初期に適切な手を打てば吉ですが、執着して徹底的に争えば凶であることを警告しています。現代の日常生活において、これは職場の人間関係や近隣トラブル、あるいはSNS上の論争などに通じます。自分の正当性を証明したいという欲望に囚われると、事態は泥沼化し、精神的なエネルギーを消耗してしまいます。

したがって、この時期の賢明な選択は、「利見大人」の言葉通り、冷静な第三者や信頼できる長者の助言を仰ぐことです。また、「不利渉大川」とあるように、大きな決断やリスクを伴う行動は避けるべきです。真の強さとは、相手を打ち負かすことではなく、自らのプライドを抑えて対立の連鎖を断ち切る決断力にあるのです。

卦体

初六

事(こと)を永(なが)くせず。小(すこ)しく言(こと)あり。終に吉なり。

九二

訟(しょう)に克(か)たず。帰りて逋(のが)る。その邑(ゆう)の三五百戸、眚(わざわい)なし。

六三

旧(ふる)き徳(とく)を食(は)む。貞(ただ)しけれども危(あやう)し。終に吉なり。或(あるい)は王事に従い、成(な)すことなし。

九四

訟に克たず。復(かえ)りて命(めい)に即(つ)く。渝(か)わりて貞(ただ)しきに安(ん)ずれば吉なり。

九五

訟す。元(げん)吉なり。

上九

或(あるい)はこれに鞶帯(ばんたい)を錫(たま)う。終朝(しゅうちょう)に三(みたび)これを褫(うば)わる。