卦辞

虎の尾を履(ふ)む。人をこれ(くら)わず。亨(とお)る。

【履】の卦は、危険な縁地を歩む際の在り方を説く、極めて示唆に富んだ教えです。「虎の尾を踏む」という衝撃的な表現は、私たちが日常で直面する予測不能なリスクや、強大な権威、あるいは自身の内なる恐怖そのものを象徴しています。しかしながら「不咥人(人を噛まず)」とあるのは、単なる幸運ではなく、踏み出す者の「心の在り方」が結果を左右することを示唆しています。

現代生活において、この虎は厳しい上司との関係や、失敗の許されない重要なプレゼンテーション、あるいは人生の岐路に現れるでしょう。この卦が提言するのは、そうした緊張感のある場面こそ、礼儀と誠実さ、そして冷静な理性を保つべき時であるということです。恐怖に屈して逃げ出せば事態は悪化しますが、相手や状況を尊重しつつ、揺るぎない覚悟を持って対峙すれば、不条理な災いは避けられるのです。

したがって、今は困難を避けるのではなく、正しい作法をもって堂々と踏み越える勇気を持つべき時です。自らの内なる秩序を整え、慎重かつ大胆に行動することで、道は必ず開かれるという心理的な確信を得てください。

卦体

初九

素(そ)より履(ふ)む。往(ゆ)くも咎(とが)なし。

九二

履(ふ)む道坦坦(たんたん)たり。幽(ゆう)人(じん)貞(ただ)しくして吉なり。

六三

眇(めし)いて能(よ)く視(み)、跛(あしなえ)にして能く履(ふ)む。虎の尾を履みて人をこれ(くら)う。凶なり。武人、大君(たいくん)と為(な)る。

九四

虎の尾を履む。愬愬(さくさく)たれば、終(ついに)吉なり。

九五

夬(さだ)めて履(ふ)む。貞(ただ)しけれども危(あやう)し。

上九

履(ふ)むところを視(み)、詳(つばび)らかに考(かんが)う。その旋(めぐ)ること元(げん)吉なり。